○広島県野生生物保護基本方針
平成六年十一月二十四日告示第千五十七号
広島県野生生物の種の保護に関する条例(平成六年広島県条例第一号)第七条第一項の規定により、広島県野生生物保護基本方針を次のとおり定めた。
広島県野生生物保護基本方針
一 緊急に保護を要する野生生物の種の保護に関する基本構想
私たちの周辺には、なじみの深い野鳥や草花から、肉眼では見えにくい小さな生き物に至るまで、極めて多様な野生生物が生息・生育している。
自然界では、個々の野生生物が単独で生存するのではなく、他の生物はもちろん、大気や光、水等の環境の影響を受けながら生態系を構成している。
また、野生生物の多くは人間の生存にかかわる資源として利用されることはもとより、生活に潤いや安らぎを与えてくれるなど、人間の豊かな生活にとっても、直接、間接に様々な恵みをもたらしている。
野生生物は、様々な種がお互いに密接な関わりを保ちながら、生態系を形づくり、エネルギーの流れや物質の循環を担っている。野生生物の種はこうした生態系の基本的な構成要素であり、自然界に多くの種が存在していること、つまり、種の多様性が最も重要である。
しかし、現在、様々な人間活動によって、多くの種が絶滅し、また、絶滅のおそれが生じている。
種の絶滅は、野生生物の多様性を低下させ、生態系のバランスを変化させるおそれがあるばかりでなく、ひいては私たちの豊かな生活やその基盤も失われることとなる。いったん失った種は、取り戻すことはできない。
将来に向けて人間の豊かな生活やその基盤を確保するために、人間活動の影響による野生生物の種の絶滅の防止に取り組むことが求められている。
我が国においては、現在、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づいた野生生物保護施策が推進されているところである。
本県においても、これまで推進してきた施策に加え、県内に生息・生育している野生生物を対象として「緊急に保護を要する野生生物の種の選定調査」を実施しており、これらの結果を踏まえ、更に野生生物保護施策を推進することが大切である。
広島県は、中国山地を形成する千メートル級の山々の北部積雪地帯とそれに続く内陸の台地、そして気侯温暖な瀬戸内沿岸部や島しょ部からなり、その複雑な地形と多様な気侯によって豊富な生物相となっている。
すなわち、北方や南方及び大陸に由来する種、氷河期などの生き証人ともいうべき種、亜高山性植物、中国山地で固有な種に分化したと考えられる種など、貴重な野生生物が数多く生息・生育しており、これらの種も絶滅のおそれが生じている。
このような理由で、次のような基本的な考え方の下に、他法令との調整を図りつつ、緊急に保護を要する種の保護施策を具体的に展開する。
野生生物の生存を脅かしている主な原因は、私たちの生活による生息・生育地の破壊やその生存環境の悪化と過度の捕獲・採取等である。
したがって、まず、これらの状況を改善することが必要であり、生物学的な観点から緊急に保護を要する種の生息地域等の保護及び捕獲・採取等の行為の規制を行う。
また、種をこのような危機から救うためには、これらの規制を行うだけでなく、生物学的に個体の生息又は生育に適した条件を整備し、その群れの維持・回復を図ることも必要である。このため、その群れの特性や状況を見て、繁殖の促進、生存環境の維持管理や整備、野生環境での繁殖が困難な場合における人工増殖・栽培等の事業を推進する。
緊急に保護を要する種の保護施策は、時機を失うことなく適切に実施される必要がある。このため、施策の推進に必要な調査研究を積極的に推進する。
以上の施策は、県民の理解や協力はもとより、貴重な種が生存する地域住民のコンセンサスを得ながら対処する必要があり、このための普及啓発を推進する。
また、これらの施策は、関係者の所有権その他の財産権を尊重し、農林水産業を営む者等住民の生活の安定及び福祉の維持向上に配慮するとともに、県土の保全その他の公益との調整を図りつつ推進するものとする。
二 指定野生生物種の選定に関する基本的な事項
1 指定野生生物種
(一) 指定野生生物種については、その県内における生息・生育状況が、人為の影響により存続に支障を来す事情が生じていると判断される種(亜種又は変種がある種にあっては、その亜種又は変種とする。以下同じ。)で、次のいずれかに該当するものを選定する。
ア その存続に支障を来す程度に個体数が著しく少ないか、又は著しく減少しつつあり、その存続に支障を来す事情がある種
イ 県内の分布域の相当部分で生息地又は生育地(以下「生息地等」という。)が消滅しつつあることにより、その存続に支障を来す事情がある種
ウ 生息地等の生息・生育環境の悪化により、その存続に支障を来す事情がある種
エ 生息地等における過度の捕獲又は採取により、その存続に支障を来す事情がある種
(二) 指定野生生物種の選定に当たっては、次の事項に留意するものとする。
ア 外来種は、選定しないこと。
イ 従来から県内にはごくまれにしか渡来又は回遊しない種は、選定しないこと。
ウ 個体としての識別が容易な大きさ及び形態を有する種を選定すること。
2 特定野生生物
特定野生生物種については、1(一)ア、ウ又はエに該当する指定野生生物種で、かつ、分布域が限定されている種を選定する。また、イに該当する種については、その分布域のうち特に重要と認められる区域を限定した上で、特定の区域に生息・生育する種を特定野生生物種として選定することとする。
三 指定野生生物種の個体の取扱いに関する基本的な事項
1 個体の範囲
指定野生生物種の個体の範囲には、卵及び種子を含むものとする。
2 個体の取扱いに関する規制
指定野生生物種の個体の捕獲、採取、殺傷又は損傷(以下「捕獲等」という。)については、その種に対する捕獲等の状況を把握するため、その個体の捕獲等を行おうとする者に対し、届出等を求めるものとする。
また、特定野生生物種の個体の捕獲等については、その種の保護の重要性にかんがみ、学術研究又は繁殖の目的その他その種の保護に資する目的で行うものとして許可を受けた場合を除き、原則として、これを禁止する。
3 その他の個体の取扱いに関する事項
指定野生生物種の個体の所有者等は、その種の保護の重要性にかんがみ、その生息又は生育の条件を維持する等その種の保護に配慮した適切な取扱いをするよう努めるものとする。
四 指定野生生物種の個体の生息地又は生育地の保護に関する基本的な事項
緊急に保護を要する野生生物の種の保護の基本は、その生息地等における個体群の安定した存続を保証することである。このような見地から、指定野生生物種の保護のためその個体の生息・生育環境の保全を図る必要があると認めるときは、野生生物保護区を指定する。
1 野生生物保護区の指定方針
(一) 野生生物保護区の指定の方法
野生生物保護区は、指定野生生物種の個々の種ごとに指定する。
(二) 野生生物保護区として指定する生息地等の選定方針
複数の生息地等が存在する場合は、個体数、個体数密度、個体群としての健全性等からみてその種の個体が良好に生息又は生育している場所、植生、水質、餌条件等からみてその種の個体の生息・生育環境が良好に維持されている場所及び生息地等としての規模が大きな場所について総合的に検討し、野生生物保護区として優先的に指定すべき生息地等を選定する。生息地等が広域的に分散している種にあっては、主な分布域ごとに主要な生息地等を野生生物保護区に指定するよう努めるものとする。
(三) 野生生物保護区の区域の範囲
野生生物保護区の区域は、野生生物保護区の指定に係る指定野生生物種の個体の生息地等及び当該生息地等に隣接する区域であって、そこでの各種行為により当該生息地等の個体の生息又は生育に支障が生じることを防止するために一体的に保護を図るべき区域とする。なお、個体の生息地等の区域は、現にその種の個体が生息又は生育している区域とするが、鳥類等行動圏が広い動物の場合は、営巣地、重要な採餌地等その種の個体の生息にとって重要な役割を果たしている区域及びその周辺の個体数密度又は個体が観察される頻度が相対的に高い区域とする。
2 管理地区の指定方針
(一) 管理地区の指定に当たっての基本的な考え方
管理地区については、野生生物保護区の中で、営巣地、産卵地、重要な採餌地等その種の個体の生息又は生育にとって特に重要な区域を指定する。
(二) 管理地区において適用される各種の規制に係る区域等の指定の基本的な考え方
ア 広島県野生生物の種の保護に関する条例(平成六年広島県条例第一号。以下「条例」という。)第二十一条第四項第四号の知事が指定する野生生物の種については、食草など指定野生生物種の個体の生息又は生育にとって特に必要な野生生物の種を指定する。
イ 条例第二十一条第四項第五号の知事が指定する湖沼又は湿原については、新たな汚水又は廃水の流入により、指定野生生物種の個体の生息又は生育に支障が生じるおそれがある湖沼又は湿原を指定する。
ウ 条例第二十一条第四項第六号の知事が指定する区域については、車馬若しくは動力船の使用又は航空機の着陸により、指定野生生物種の個体が損傷を受けるなど現に指定野生生物種の個体の生息若しくは生育に支障が生じている区域又はそのおそれがある区域を指定する。
エ 条例第二十一条第四項第七号から第十一号までの行為を規制する区域として知事が指定する区域については、これらの行為により、現に指定野生生物種の個体の生息若しくは生育に支障が生じている区域又はそのおそれがある区域を指定し、その区域ごとに知事が指定する期間については、これらの行為による指定野生生物種の個体の生息又は生育への影響を防止するために繁殖期間など必要最小限の期間を指定する。
オ 条例第二十一条第四項第八号の知事が指定する種については、現に指定野生生物種の個体を捕食し、餌、生息・生育の場所を奪うことにより圧迫し、若しくは指定野生生物種との交雑を進行させている種又はそれらのおそれがある種を指定する。
カ 条例第二十一条第四項第九号の知事が指定する物質については、現に指定野生生物種の個体に直接危害を及ぼし、若しくはその個体の生息・生育環境を悪化させている物質又はそれらのおそれがある物質を指定する。
キ 条例第二十一条第四項第十一号の知事が定める方法については、生息・生育環境をかく乱し、繁殖・育すう行動を妨害する等現に指定野生生物種の個体の生息若しくは生育に支障を及ぼしている方法又はそのおそれがある方法を定める。
3 野生生物保護区及び管理地区の区域の保護に関する指針
野生生物保護区及び管理地区の区域の保護に関する指針においては、指定野生生物種の個体の生息又は生育のために確保すべき条件とその維持のための環境管理の指針などを明らかにするものとする。
4 野生生物保護区及び管理地区の指定に当たって留意すべき事項
野生生物保護区及び管理地区の指定に当たっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、農林水産業を営む者等住民の生活の安定及び福祉の維持向上に配慮し、地域の理解と協力が得られるよう適切に対処するものとする。また、県土の保全その他の公益との調整を図りつつ、その指定を行うものとする。この際、土地利用に関する計画との適合及び国土開発に係る諸計画との調整を図りつつ、指定を行うことに留意するものとする。
五 保護管理事業に関する基本的な事項
1 保護管理事業の対象
保護管理事業は、指定野生生物種のうち、その個体数の維持・回復を図るためには、その種を圧追している要因を除去又は軽減するだけでなく、生物学的知見に基づき、その個体の繁殖の促進、その生息地等の整備等の事業を推進することが必要な種を対象として実施する。
2 保護管理事業計画の内容
保護管理事業の適正かつ効果的な実施に資するため、事業の目標、区域、内容等事業推進の基本的方針を種ごとに明らかにした保護管理事業計画を策定するものとする。当該計画においては、事業の目標として、維持・回復すべき個体数等の水準及び生息地等の条件等を、また、事業の内容として、巣箱の設置、餌条件の改善、飼育・栽培下での繁殖、生息地等への再導入などの個体の繁殖の促進のための事業、森林、草地、水辺など生息地等における生息・生育環境の維持・整備などの事業を定めることとする。
3 保護管理事業の進め方
保護管理事業計画に基づく保護管理事業は、県、市町村、民間団体等の幅広い主体によって推進することとし、その実施に当たっては、対象種の個体の生息又は生育の状況を踏まえた科学的な判断に基づき、必要な対策を時機を失することなく、計画的に実施するよう努める。また、対象種の個体の生息又は生育の状況のモニタリングと定期的な事業効果の評価を行い、生息又は生育の状況の動向に応じて事業内容を見直すとともに、生息又は生育の条件の把握、飼育・繁殖技術、生息・生育環境の管理手法等の調査研究を推進する。
六 その他緊急に保護を要する野生生物の種の保護に関する重要事項
1 調査研究の推進
緊急に保護を要する野生生物の種の保護施策を的確かつ効果的に推進するためには、何よりも生物学的知見を基盤とした科学的判断が重要であり、種の分布、生息・生育状況、生息地等の状況、生態、保護管理手法その他施策の推進に必要な各分野の調査研究を推進する。
2 県民の理解の促進と意識の高揚
緊急に保護を要する野生生物の種の保護施策の実効を期するためには、県民の種の保護への適切な配慮や協力が不可欠であり、緊急に保護を要する野生生物の種の現状やその保護の重要性に関する県民の理解を促進し、自覚を高めるための普及啓発活動を積極的に推進する。
また、人と野生生物の共存の観点から、豊林水産業が営まれる農地、森林等の地域が有する野生生物の生息・生育環境としての機能を適切に評価し、その機能が十分発揮されるよう対処するものとする。
なお、土地所有者や事業者等は、各種の土地利用や事業活動の実施に際し、緊急に保護を要する野生生物の種の保護のための適切な配慮を講じるよう努めるものとする。